セブ島への旅行や滞在経験がある方なら、きっと一度は訪れたことがあるであろう「SMモール」。フィリピン国内に数多く存在するSMモールの中でも、セブのSMは特に規模が大きく、私たち日本人にとっても非常に身近な存在ですよね。
でも、この巨大なSMモールがどのようにしてセブに誕生し、発展してきたのか、その背景にある物語をご存知でしょうか?今回は、SMグループの創業者であるヘンリー・シー Sr.氏の壮大なビジョンと、それがどのようにセブの地で現実のものとなり、地域社会に根付いていったのかを、じっくりと紐解いていきたいと思います。
この記事では、セブのSMモールの歴史を、創業者ヘンリー・シー Sr.氏の生涯、そしてSMグループの不動産開発を担うSMプライム・ホールディングスの歩みと絡めながらご紹介します。
まずは、この記事のポイントを簡単にまとめました。
この記事のまとめ
- SMグループはフィリピン経済に大きな影響力を持つ巨大企業グループであり、セブは彼らにとって戦略的に重要な地域でした。
- SMグループの創業者ヘンリー・シー Sr.氏は、「フィリピン小売業界の父」と呼ばれる先見の明を持つ事業家です。
- 彼は靴店「シューマート」から事業を始め、デパートメントストア、そしてフィリピン初の大型モールへと事業を拡大しました。
- SMモールの開発・運営を専門に行うSMプライム・ホールディングスが、彼のビジョンを具現化し、全国展開を加速させました。
- セブには、SMシティ・セブ、SMシーサイド・シティ・セブ、SMシティ・コンソラシオン、SMシティ・Jモール・セブといった多様なSMモールがあり、それぞれが異なる役割を担っています。
- SMモールはセブの経済発展と地域社会の生活に深く関わり、単なる商業施設を超えた存在となっています。
「フィリピン小売業界の父」ヘンリー・シー Sr.の軌跡
SMモールの物語を語る上で欠かせないのが、その礎を築いた創業者、ヘンリー・シー Sr.氏です。彼は、まさに「裸一貫からの成功物語」を体現した人物であり、フィリピンのビジネス界に計り知れない影響を与えました。
若き日々と事業の始まり
ヘンリー・シー Sr.氏は1924年、中国の福建省厦門(アモイ)に生まれました。若くしてフィリピンへと移り住み、非常に質素な環境から彼のキャリアはスタートしました。この若い頃の苦労が、後の彼の粘り強さや、市場のニーズを見抜く鋭い感覚を養ったと言われています。
シューマートからデパートメントストアへ
彼の事業家としての第一歩は、1958年にマニラで開いた小さな靴店「シューマート(ShoeMart)」でした。この店名こそが、後にフィリピンを代表する巨大企業グループとなる「SM」の名前の由来となったのです。当初は、手頃な価格で質の良い靴を提供することに注力し、一般の人々のニーズに応えることで、着実にビジネスを成長させていきました。
事業が順調に進むにつれて、シー氏は靴だけでなく、もっと幅広い商品を扱いたいと考えるようになります。そして1972年、彼はデパートメントストア事業への拡大を決断します。マニラにオープンした「SMキアポ」は、フィリピンにおける本格的なデパートメントストアの先駆けの一つとされており、これが単なる靴屋から総合小売業へと舵を切る重要な転換点となりました。この経験が、後の大規模モール展開へと繋がる布石となったのです。
モールコンセプトの導入と成功
ヘンリー・シー Sr.氏の最も革新的な功績の一つは、フィリピンに大規模な「統合型ショッピングモール」という新しい概念を持ち込んだことでしょう。1985年、彼はマニラ首都圏に最初の「スーパーモール」、「SMシティ・ノースEDSA」を開業しました。これは、単に多くの店舗を集めただけでなく、ショッピングはもちろん、食事やエンターテイメントも一つの場所で楽しめる、当時としては画期的な施設でした。このSMシティ・ノースEDSAの成功が、その後の数十年にわたるSMの全国的なモール開発のモデルとなったのです。
シューマートの創業(1958年)、デパートメントストアへの移行(1972年)、そして最初の大型モール開業(1985年)という節目を見ると、約13年から14年ごとに事業を大きく飛躍させていることが分かります。これは、一つのビジネスモデルをしっかりと確立し、経験と資金力を蓄えた上で、次のより大きな挑戦へと進むという、彼の慎重かつ大胆な事業拡大戦略を示唆しています。この段階的な成長が、後のSMプライムによる全国規模での急速なモール展開を可能にする強固な基盤となったと考えられます。ヘンリー・シー Sr.氏が、小さな靴店から始まり、フィリピンに統合型モールという新しいライフスタイルを根付かせた道のりは、市場の変化を敏感に捉え、それに応えるために事業を柔軟に進化させる彼の卓越した能力を物語っています。特にSMシティ・ノースEDSAの成功は、モール事業の大きな可能性を証明し、セブを含むフィリピン全土への展開という彼の野心をさらに燃え上がらせたに違いありません。
成長と多角化、そして遺産
小売業での揺るぎない成功を足がかりに、SMグループは銀行業、不動産開発(これがSMプライム・ホールディングスの設立に繋がります)、ホテル、コンベンションセンター運営など、様々な分野へと事業を広げていきました。これらの事業は、持株会社であるSMインベストメンツ(SM Investments Corporation)のもとで統括され、フィリピンを代表する巨大コングロマリット(複数の異業種企業からなる複合企業体)へと成長を遂げました。
ヘンリー・シー Sr.氏は、その偉大な功績から「フィリピン小売業界の父」として広く尊敬されています。米経済誌フォーブスによるフィリピン長者番付では、なんと11年連続で首位に輝くなど、その驚異的な成功は世界中に知られるところとなりました。彼は2019年1月に94歳でその生涯を閉じましたが、彼が築き上げたSM帝国とその革新的なビジョンは、今なおフィリピン経済と人々の生活に大きな影響を与え続けています。彼の死後も、SMグループはフィリピン最大手の物流企業を買収するなど、事業規模の拡大を精力的に続けています。
SMプライム・ホールディングス:モール開発を牽引する力
ヘンリー・シー Sr.氏の壮大なビジョンを現実のものとし、SMスーパーモールの全国展開を加速させる上で中心的な役割を果たしているのが、SMプライム・ホールディングス(SM Prime Holdings, Inc.)です。
設立とその重要な使命
SMプライム・ホールディングスは、SMグループの不動産開発部門として1994年に設立されました。その最も重要な使命は、SMスーパーモールの開発、運営、そして維持管理です。もちろん、セブ島に展開されている数々のSMモールも、このSMプライムが手掛けています。同社はフィリピン証券取引所(PSE)に上場しており、株式市場から資金を調達しながら、大規模な開発プロジェクトを次々と実現させてきました。
1994年という設立年は、ヘンリー・シー Sr.氏が既にSMシティ・ノースEDSA(1985年開業)などでモール事業を成功させた後であり、セブ初のSMモールとされるSMシティ・セブの開業(一般的には1993年11月頃とされています)とも近い時期にあたります。これは、モール開発事業が一定の規模に達し、さらなる効率化と拡大を目指すために、不動産開発に特化した専門の会社を設立する必要が生じたことを示唆しています。不動産開発を専門とする上場企業を設立することで、株式市場からの資金調達が容易になり、より多くの投資家を惹きつけ、そして開発プロセスを標準化することが可能になりました。これにより、従来の親会社の構造の中で開発を進めるよりも、はるかに積極的かつ計画的に全国展開を進めることができるようになり、SMグループの不動産部門は専門性と高度なノウハウを持つ組織へと進化しました。
初期ポートフォリオと目覚ましい成長
SMプライムは設立当初、既に運営されていたいくつかのモール(おそらくSMシティ・セブも含まれていたと考えられます)を初期の資産として事業をスタートさせました。その後、同社は驚異的なスピードで成長を遂げ、2024年に上場30周年を迎えた時点では、ショッピングモールだけでなく、住宅開発、オフィスビル、ホテル、コンベンションセンターなど、多岐にわたる不動産をフィリピン国内の主要な都市に展開する、東南アジアでも有数の統合型不動産開発企業へと変貌を遂げています。
戦略とビジョン
SMプライムは、ヘンリー・シー Sr.氏が描いた「SMモール体験をフィリピン全国の人々に届ける」という壮大なビジョンを実行する上で、まさにその中心的な役割を担ってきました。SMプライムの社長であるジェフリー・C・リム氏は、同社が「ショッピング、ダイニング、アミューズメント、エンターテイメントのための世界クラスのデスティネーション(目的地)を創造する」ことを目指して設立されたと語っています。この言葉は、単に商業施設を建てるだけでなく、地域社会の人々が集まり、生活を豊かにするための中心となるような場所を創り出すという、SMグループの長期的な目標を明確に表しています。
セブにおけるSMモールの足跡:地域に根差した展開
ビサヤ地方の中心都市であり、商業、観光、そして多くの人々が集まる場所として非常に重要なセブは、SMグループの全国展開戦略において、初期の段階から極めて重要なマーケットとして位置づけられていました。SMがセブに進出したことは、この地域の小売業のあり方や人々のライフスタイルを大きく変えるきっかけとなったのです。
セブ地域には、規模や特徴の異なるいくつかのSMモールがあります。それぞれのモールが、地域の特性や人々のニーズに合わせて、独自の役割を果たしています。
SMシティ・セブ:セブのSMの歴史を切り拓いた先駆者


SMシティ・セブは、SMグループがセブで展開を始める上で、その基礎となった記念すべきモールです。一般的には1993年11月に開業したとされており、これはSMプライム・ホールディングスが正式に設立された1994年とほぼ同じ時期にあたります。この開業のタイミングからも、セブ市場がSMグループにとって、全国展開を本格化させる初期段階においていかに優先順位が高かったかが伺えます。
セブ市中心部のノース・レクラメーション・エリアという、アクセスが非常に便利な場所に位置しているため、開業当初から多くの買い物客や家族連れで賑わい、あっという間にセブを代表する商業施設、そして人々の憩いの場としての地位を確立しました。
SMシティ・セブで提供される内容は非常に幅広く、SMブランドの中核となるデパートメントストア「The SM Store」は、複数のフロアにわたって展開されています。例えば、地下1階(LG)には靴やバッグ、文具、スーツケースなどが並び、地上1階(UG)には化粧品やフィリピン土産を扱うKultura、紳士服、そして旅行者には嬉しい両替所があります。2階にはベビー・子供用品や婦人服、3階には家具や家庭用品など、生活に必要なあらゆるものが揃っています。
ファッションについても、ユニクロやH&Mといった国際的な大手アパレルブランドはもちろん、フィリピンで絶大な人気を誇るローカルブランド、ペンショップ(Penshoppe)やベンチ(Bench)などもテナントとして入居しており、幅広い年齢層や好みに対応できる品揃えです。
食事の面でも、大規模で活気のあるフードコートに加え、Kuya JやZubuchonといったフィリピン料理の人気店、日本の丸亀製麺、Cafe Laguna、Nonki、そしてビュッフェ形式のVikingsなど、フィリピン料理から日本食、様々な国の料理まで、多様なジャンルのレストランが集まっています。
さらに、最新の映画が楽しめる映画館や、フィリピンならではのお土産を探せるKulturaなども備わっており、単に買い物をするだけでなく、一日中楽しめる総合的な体験を提供しています。
開業から30年以上が経過した現在でも、SMシティ・セブはその魅力を失うことなく、多くの人々で賑わっています。2025年現在も拡張工事が進められているという情報は、SMプライムが既存の、そして非常に重要な資産に対しても継続的に投資を行い、常に新しい魅力やサービスを提供することで、市場での競争力を維持しようとしていることの表れです。後から開業した、より規模の大きなSMシーサイド・シティ・セブが登場した後も、SMシティ・セブが高い人気を保ち続け、さらに拡張投資の対象となっているという事実は、その確立された市場での地位と、何よりもそのアクセスの良さが、安定した顧客基盤を確保していることを物語っています。これは、SMグループが、新しい大規模なランドマーク開発(SMシーサイド)と、既に成功している好立地の既存資産の活性化(SMシティ・セブ)という、二つの戦略を効果的に組み合わせていることを示唆しています。
SMシーサイド・シティ・セブ:セブの新しいランドマーク


SMシーサイド・シティ・セブは、SMプライムがセブに投じたプロジェクトの中でも、最大級の規模と野心を持った、まさにセブの新しいランドマークと言える存在です。セブ市のサウスロード・プロパティーズ(SRP)という、海を埋め立てて新しく作られた開発地区に位置しており、2015年11月頃に華々しく開業しました。
その最大の特徴は、何と言ってもその圧倒的な「規模」です。敷地面積は約47万平方メートルにも及び、これはSMシティ・セブ(約27万平方メートル)をはるかに凌駕し、フィリピン国内でも有数の広さを誇るショッピングモールです。モール内部には約1,000もの店舗スペースが設けられており、膨大な数のテナントが入居しています。ファッションフロアには、SMシティ・セブでも人気のH&M、ユニクロ、ペンショップ、ベンチ、マンゴといった国内外のブランドが集結していますが、その広大なスペースを活かした、より品揃えが豊富な旗艦店クラスの店舗も多いのが特徴です。
SMシーサイドは、単に買い物を楽しむ場所というだけでなく、複合的なレジャー・エンターテイメント施設としての性格を非常に強く持っています。その象徴的な存在が、モール内に常設されているアイススケートリンクです。熱帯気候のセブにいながら、本格的な氷上でスケートを楽しめるというのは、非常にユニークで魅力的な体験を提供しています。また、モールに隣接して、フィリピン最大級の水族館「セブ・オーシャンパーク」があり、モールでのショッピングや食事と組み合わせて、一日中飽きずに過ごせる一大レジャーエリアとなっています。さらに、ボーリング場や最新の映画が楽しめるシネマコンプレックス、ゲームセンターなども完備されており、子供から大人まで、あらゆる年齢層が楽しめる施設が揃っています。広々としたエントランス付近のスペースは、頻繁に様々なイベント会場として利用され、特に週末には多くの人々で賑わいを見せます。
SRPという新しい開発地区に、これほどまでに巨大なモールを建設するという決断は、SMプライムによるセブの将来的な成長ポテンシャルへの大きな期待と、それに向けた大胆な投資であったと言えます。その圧倒的な規模と、アイススケートリンクやオーシャンパークとの連携といった「デスティネーション(目的地)」としての要素は、単に地域の人々が日常的に利用するショッピングセンターという枠を超え、セブ島内外の広範囲から人々を惹きつける一大レジャーハブとしての地位を確立することを狙ったものです。SMシーサイドは、SRP地区全体の商業施設や住宅開発を牽引する「アンカーテナント」(集客の核となる大型店舗)としての役割を担い、セブの小売業界、そして都市景観に新たな次元をもたらすことを意図した、まさに戦略的なランドマーク開発であったと考えられます。
広がるリーチ:地域に寄り添うSMモール
SMグループのセブにおける展開は、大規模な旗艦モールや都市中心部の主要施設だけにとどまりません。より広範な地域の人々にSMのサービスを届けるため、異なるタイプのモールも展開しています。
SMシティ・コンソラシオンは、セブ市から車で北へ約1時間ほどの距離にあるコンソラシオン町に位置しています。このモールは、主にその周辺地域に住む人々をターゲットとした、いわゆる「コミュニティ型モール」としての性格が強いのが特徴です。提供される情報によれば、「最低限のテナントが揃っている」と表現されることもあり、SMシティ・セブやSMシーサイドのような際立った特徴や大規模なアトラクションはありません。しかし、地域住民にとっては、日々の買い物や食事、ちょっとした休憩に気軽に立ち寄れる、生活に密着した重要な存在となっています。
SMシティ・Jモール・セブは、比較的最近の動きであり、2024年にSMグループのモールとしてリニューアルオープンしました。このモールは、セブ市に隣接するマンダウエ市のA.S.フォーチュナ通りという、非常に特徴的な場所に位置しています。この通りは、日本食レストランや日系企業関連の店舗が多く集まるエリアとして知られており、SMシティ・Jモールもその立地特性を活かした、あるいは反映した独自のコンセプトを持っている可能性が示唆されています。このケースは、SMプライムが新しいモールを建設するだけでなく、既に存在する商業施設を取得し、SMブランドとしてリニューアルするという手法も用いて、戦略的に重要な立地への進出を図っていることを示しています。
SMシティ・コンソラシオンのような地域密着型のコミュニティモールと、SMシティ・Jモールのような既存施設の買収・リブランドによる展開は、SMプライムがセブ市場において、多様なアプローチを採用していることを明確に示しています。これは、圧倒的な集客力を持つデスティネーションモール(SMシーサイド)や、既に確立された都市中心部のハブ(SMシティ・セブ)に加えて、特定の郊外地域をカバーする比較的小規模なモール(SMシティ・コンソラシオン)、そして既存の商業施設を有効活用して、マンダウエ市のA.S.フォーチュナ通りといった戦略的な都市内エリアにも浸透していくという手法(SMシティ・Jモール)を組み合わせることで、メトロ・セブ全域における市場のカバレッジを最大化し、SMブランドの存在感を高めることを目指す戦略であると言えるでしょう。
創業者のビジョンがセブにもたらしたもの
セブにおけるSMモールの発展は、創業者ヘンリー・シー Sr.氏の基本的なビジョンと、それを現実のものとするために設立されたSMプライム・ホールディングスの戦略と実行力の具体的な現れです。
ヘンリー・シー Sr.氏は、質の高い商品やサービスを手頃な価格で提供し、買い物だけでなく、食事やエンターテイメントもまとめて楽しめる「ワンストップ・ショップ」としてのモール体験を、マニラ首都圏だけでなく、フィリピン全土の人々に届けたいという強い思いを持っていました。セブにおける最初の主要モールであるSMシティ・セブの建設は、この全国的なビジョンを、フィリピンの主要な地方中心都市の一つであるセブで実現するための、初期の非常に重要な一歩でした。
この壮大なビジョンを、より体系的に、そしてさらに発展させて実行したのがSMプライム・ホールディングスです。SMプライムは、不動産開発に関する専門的なノウハウと、上場企業としての資金調達力を最大限に活用し、SMシティ・セブの成功を基盤として、より大規模で野心的なプロジェクトであるSMシーサイド・シティ・セブを実現させました。さらに、SMシティ・コンソラシオンやSMシティ・Jモールといった展開を通じて、セブ都市圏におけるSMブランドの浸透度を一層高めています。
セブにあるこれらのSMモールは、その規模や特徴は異なりますが、どれもヘンリー・シー Sr.氏がフィリピンに導入した「SMスーパーモール」のコンセプトをしっかりと体現しています。国内外の様々なブランドが集まるショッピング、活気のあるフードコートから多種多様なレストランまで揃うダイニングオプション、そして映画館やアイススケートリンク、イベントスペースといったエンターテイメント機能が、全て一つの場所に統合されています。これらは、モールを単なる商業施設としてだけでなく、地域社会の人々が集まり、交流し、様々な活動を楽しむことができる「生活の中心地」として位置づけるという、SMブランドの核となる考え方を反映していると言えるでしょう。
セブにおけるSMモールの進化の過程、すなわち、セブのSMの歴史を切り拓いた先駆的なSMシティ・セブから、圧倒的な規模とデスティネーション要素を持つ巨大なランドマークであるSMシーサイド、そして既存施設の戦略的な買収によるSMシティ・Jモールへの展開は、ヘンリー・シー Sr.氏が掲げた核となるビジョンが、時代の変化や市場のニーズに応じて柔軟に適応し、持続していく力を持っていることを示しています。モールの規模や提供される機能は進化しましたが、地域社会の生活、商業、そしてレジャーの中心となる「ハブ」としてのモールという基本的な概念は一貫しており、SMプライムによってセブの市場環境の中で見事に具現化され、展開されてきたのです。
まとめ:セブの発展と共に歩むSMモール
SMグループがセブに進出してからの数十年にわたる歴史は、単に一企業が地域で事業を展開したという話にとどまらず、セブ島自身の目覚ましい成長と都市としての変貌を映し出す物語でもあります。その歩みは、セブにおけるSMの歴史の始まりとなったSMシティ・セブの開業から、セブの都市景観を大きく変えたSMシーサイド・シティ・セブという壮大なランドマークの建設によって劇的に拡大し、さらにSMシティ・コンソラシオンやSMシティ・Jモールといった多様な展開を通じて、セブ地域へのSMブランドの浸透を深め続けています。
セブにおけるこの広範な事業展開を実現するためには、SMグループの創業者であるヘンリー・シー Sr.氏の先見性、困難に立ち向かう起業家精神、そして彼の壮大なビジョンを具体的な形にするための組織として設立されたSMプライム・ホールディングスの高い実行力が不可欠でした。彼の「フィリピン全国に、誰もが楽しめる素晴らしいモール体験を届けたい」というシンプルながらも力強い目標が、セブにおけるこれら大規模な投資と開発の原動力となったのです。
今日、セブにあるSMモールは、セブの経済に対して、数多くの雇用を生み出し、小売セクターを活性化させ、関連する様々な産業への投資を誘発するといった面で、計り知れない貢献を続けています。同時に、セブに住む人々にとって、SMモールは単に買い物をする場所というだけでなく、家族や友人と食事を楽しんだり、映画やイベントで娯楽を満喫したり、あるいは単に涼しい場所で休憩したりと、日常生活に欠かせない、まさに「生活の中心」となっています。SMシティ・セブで現在も進行中の拡張工事や、SMシティ・Jモールの新たなオープンは、SMグループがセブ市場に対して今後も積極的に関与し続け、変化する市場環境や人々のニーズに適応しながら、さらなる発展を目指していることを示しています。
SMグループがセブに進出した1990年代初頭から現在までの期間は、セブが単なる地方都市から、フィリピン第二の主要都市圏へと目覚ましい経済成長と都市化を遂げた時期と見事に重なります。SMによる大規模な商業施設やレジャー施設の開発は、セブの都市インフラを強化し、新たな雇用を生み出し、そして近代的なライフスタイルを提供することで、このセブの成長を後押ししてきた側面があります。一方で、セブの人口増加と経済発展が、SMの大規模な投資を成功させるための大きな市場需要を提供してきたこともまた事実です。このように、SMグループのセブにおける歴史は、開発業者であるSMと、地域社会との間の相互に良い影響を与え合う関係性、つまり「共生的な発展」の軌跡を示しており、SMがセブの都市景観と地域経済において、これからも非常に重要な役割を果たし続けるであろうことを強く示唆しています。